ウェット性能というやつを考えてました。
前回の続きでございます。

ウェット性能とはなんぞや

読んで字のごとく、濡れた路面での性能のことですね。言わずもがな。
確かに雨の日は怖いので、濡れた路面に強いと聞けば、ツーリング好きのライダーならカルカンを開ける音を聞いた猫の如く飛びつきます。だって怖いんだもの。

そのウェット性能必要?

気が向いたときにふらっと出かけるようなショートツーリングなら、雨予報の日は予定を変更して引きこもることもできますが、
日をまたぐようなロングツーリングだと、出先で雨に出くわすこともあるでしょう。
また、ショートであっても事前に計画していたツーリングだったり、出先で動かせない予約をしていたりといった場合は、レインウェアを用意して出かけると思います。
そういったシーンが多い、あるいは何よりもその点を重視したい場合はウェット性能を売りにしたタイヤを選ぶとよいでしょう。

しかし、ドライグリップを重視しているであろうスポーツタイヤであっても、ウェット性能をまるっきり無視しているわけでもありません。そして、普通のライダーであれば、雨の日や濡れた路面では注意して走ると思います。
急加速や、深く寝かせて曲がるような事をしなければ、そこまでウェット性能にこだわることもないかもしれないのです。

ウェット性能には2つのポイントが

ウェット路面には、注意すべき点が2つあります。

一つが水の膜。
要は水たまりのことです。タイヤの表面と路面との間に水が入り込むと、タイヤは路面をつかめなくなり、いともあっけなく滑ります。
クルマの話題でよく聞くハイドロプレーニング現象というヤツです。
バイクの場合、接地面積が小さい事が幸いし、四輪車よりもハイドロプレーニング現象は起きにくいという傾向はあります。ですが、いざ起こった時のヤバさは四輪車以上と言えます。

この水の膜に対抗するために与えられた性能が、いわゆる『排水性』。
こいつが高いタイヤは、単純に水たまりに強いタイヤと言えます。
一般的には、シーランド比が低いほど溝が多い、つまり水をかき出すための道が多いので、排水性は高くなるわけですが、溝の位置や角度を工夫することで高めのシーランド比と排水性を両立させているタイヤもあります。
また、最近は溝の断面形状に工夫をこらすことで、同じ条件でもより高い排水性を売りにしているタイヤもあります。
写真はミシュランの新作タイヤのカットモデルですが、細い溝が奥で広がっているのがわかります。これにより新品時はもとより、タイヤの摩耗が進んでも排水性の高さを維持できるとのことです。

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もう一つのポイントが、低温時のグリップ。
濡れた路面の問題として、路面温度、タイヤの表面温度が上がりにくい事が挙げられます。
タイヤがグリップ力を発揮する為にある程度の温度が必要なことは、理屈は知らないまでも経験として大抵のライダーが知っていると思います。
いわゆる温度依存性というヤツですが、近頃はこの温度依存性を抑えるために、低温でもグリップするコンパウンドが使われるようになりました。それが、タイヤのカタログでもよく目にするシリカというヤツです。
タイヤに使われるゴムの従来の主流であったカーボンブラックの代わりにこのシリカを配合することで、タイヤの温度依存性はグンと低くなりました。さらに、このシリカを多く配合したコンパウンドは、それ自体が撥水性を持つとの事で、ウェット向けタイヤにはとても都合の良い材料なわけです。

エラく都合の良いこのシリカという材料ですが、じゃあ全部のタイヤをシリカで作ればいいじゃん、とは行かず。シリカには高温に弱いという弱点もありました。最近はまたまた工夫をこらす事で、いくらか高温に強くなってはいるのですが、まだまだカーボンブラックには及ばないようで、しっかり温めてから使う事を前提としたハイグリップタイヤには使われていないか、限定的な配合に留まっているようです。

しかしツーリングタイヤならではの強みも

多くの場合において、ツーリングタイヤはウェットに強いわけですが、ある程度条件を限定すると、ウェット時のグリップ性能でスポーツタイヤがツーリングタイヤを上回る事もあります。
前述の通り、ウェット路面で問題になるのは水たまりと温度。
つまり、深い水たまりを通らず、かつタイヤの温度を維持できる状況ならば、むしろドライグリップ性能の方が物を言う状況もありそうです。

ですが、スポーツタイヤとツーリングタイヤでは、溝の刻まれた範囲の広さという違いも。
スポーツタイヤのパターンというのは、溝の少なさ(シーランド比の高さ)そのものもありますが、寝かせていくとさらに接地面の溝が減る、という特徴もあります。特に近頃のスポーツタイヤは、膝が地面に届くかどうかくらいのハーフバンク程度の角度で、すでに全く溝のない領域を使っていたりします。さすがに全く溝がないとなると、水たまりと呼べない程度の水の膜でもあっさりグリップを失います。
しかし、ツーリングタイヤなら、ちょっと水しぶきが上がる程度の路面なら膝擦りもできなくはありません(曲乗りと呼べそうな乗り方になりますが)。レーシングレインタイヤを禁止されているイベントで、急遽近所の用品店でツーリングタイヤを買ってきた、なんて話もそれなりに聞くくらいです。
もちろん、雨の日にわざわざ狙ってそんな事をする人もいないと思うので、この点はあくまで安心感のためでもありますが。

雨が降ればそもそも注意して乗るのだから、無闇に飛ばす事も深く寝かせて曲がる事もないと思います。
雨=ツーリングタイヤじゃないと走れない、と思い込んでしまわず、必要なときは注意しながら乗るという前提でスポーツタイヤを選ぶというのも十分ありですし、安心感のためにツーリングタイヤを選ぶというのもあり、というお話でした。

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